2012年2月16日木曜日

ものがたり、とは。


ジョン・アーヴィング 「あの川のほとりで」 を読みました。
感想ですが、最終的には、大満足。
あぁ、ひさしぶりに、どっぷり物語の中に入ることができた、しあわせ。


最終的に、というのは、途中けっこううんざりしてしまって、上巻の終わりらへんでいったん中断していたからです。
今回のこの小説は、ジョン・アーヴィングが長年構想し続けてきた自伝的小説、という触れ込みで、確かに、主人公の小説家のまわりで起こるいろいろには、長年の読者ならすぐにアーヴィングを連想するような描写がいっぱい登場する。
最初はどうもそれが鼻に付くように思えて、それでうんざりするのかなぁ、と思っていたのですが、どうもそういうわけでもなさそうで、たぶん、「自分の人生とか仕事を振り返って、何か確固としたものを述べたいのだろうか、今回のこの人は」と思いながら読んでしまったのが、ダメだったみたい。

アーヴィングの小説は、徹底した通俗小説だと思う。いまどき珍しく。
たくさんの登場人物がひしめき合っていて、全ての人々に詳細で様々な物語があって、その細部をしつこいくらい描いていくことで、全部が混然となってひとつの物語ができる。
細部には夢も人生も教訓もあるだろうけど、いちいちそんなこと説明しない。読む側にゆだねられる。
なにかを主張していないと書く意味がない、みたいな小説とは、ぜんぜん違う。
単に物語の世界だけが、読んでいる間は無限に広がって行く。
極端に言うと、「ものがたり」として、徹底的に作りこまれていておもしろければ、それでいい、というものだと思う。アーヴィングの小説は。

だから今回も、主人公がアーヴィングを思わせるようなところがあるのも、社会的な背景、たとえばベトナム戦争や9・11テロが織り込まれるのも、単なるお話のしかけ、なのです。
何かを主張したいんだろうか、なんて考えて読んでしまうと、単なる支離滅裂で読みにくい話としか思えなくなってしまう。
変なひっかかりがなくなった途端、ひたすらおもしろい本、に変身したのでした。


今更ですが、あらすじは、主人公で後に小説家として成功するダニーと、そのコックの父親が、たくさんのものを亡くし続けて逃げ続けるお話。
あらすじで言うと、これだけ。
それが上下で1000ページにもなるんだから、その細部の描写たるや、すさまじく、素晴らしい。

角田光代がどっかの書評で、「読みにくいけれど、最後の5行で全てが納得できる」とか言っていて、そんなのではそもそもないのです。
全部に意味があって、全部に意味がない。たった5行でまとまるような、そんなお話ではない。
その点、江國香織の書評は格段に的を得ていた。
「言葉で満たされる」「読んで、一人ずつに出会える喜び」といったもの。
ほんと、それに尽きます。


時間がたっぷりあって、小説というものを読んでいる時間が好きな人は、どうぞ。おすすめ。

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