2011年5月21日土曜日

未見坂


堀江敏行 「未見坂」を読んでいます。
芥川賞を受賞した「熊の敷石」以来、気がつくと、ほとんどの作品を読んでいる。
日本人の現役の作家では、この人と、村上春樹だけかもしれない。

これは2008年に出た単行本で、谷崎賞受賞の「雪沼とその周辺」に続く連作短編集。
「雪沼~」はとても良かったので読みたい読みたい…と思いつつ、でもすぐに文庫になるしその時まで…と思っていても3年たってもならないし、もういいかー買ってしまえっ、と買った直後に文庫化されたと知って大変ショックを受けている最中…。


この人の文章は、さいきん多い、マンガみたいな小説とは一線を画しています。
『歪んだもの、鋭いもの、生々しいものそれら一切を抑えた筆』と、また別の作品の書評で評されていたのですが、まさにその通り。
ぼんやり浮かび上がってくるイメージが、いろんな色に変っていって(形はほとんど変わらない)、終わる、かんじ。
でも、そのイメージは他の人では見せてくれないようなもので、私はそれがとても好きです。
ぼんやりしたイメージとは反する、はっとするような細部の描写も、おもしろい。

須賀敦子のエッセイのような、過去と、現実と、物語と、その全部を行き来しながら、なにか別の世界を覗いているいるような感覚に、ちょっと近いかもしれない。
須賀敦子ほどの、ひんやりさみしい感じはないけれど。

旅行先で道に迷うような、そんな感じを抱かせる終わり方の話が多いのも、好きです。


五月晴れのお昼間に、窓を開けてのんびり読むのにぴったり。
文庫を逃したのは痛いけれど、この季節まで読まずにおいたのは、正解、かもね。

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