ひさしぶりに、本の話を。
堀江敏行 『なずな』を、のんびり読んでいます。
「育児小説」だなんて分かりやすいことばで紹介されていますが、そのせいで読まずにいる人がどれだけいるだろう、と思う。
およそ堀江敏行というどこか現実離れした作風の作家と、育児というとてもリアルで生身の行為が結びつきにくいというせいもあるけれど、それ以上に、さいきん巷にあふれる、「イクメン」という生き物にたいする手放し称賛の空気というものに若干辟易しているせいもあり、お決まりの風景を読まされるのもなぁ、と私もはじめかなり引き気味でした。
しかしそこはやっぱり堀江敏行で、赤ん坊のちょっとした成長で一変する空気、いままで見ていた世界の変化、人との関わりよう、そんな普通の、でもそういう普通が大半の日常を、こんなにも豊かに光ある世界に見せてくれるんだと、半ば感動に似たきもちで読み進めることができます。
素晴らしい写真や絵を見たときの感じに似ている。
そこに存在する美しさを、こんな形で表現することができるだ、という、驚き、というか、羨望というか。
ことば、というものは、ほんとうに豊かなものだなぁ、と心から思える。
こんなにも豊かな日本語を使いこなせる人が、フランス文学の専門家というのも、いつもおもしろいなぁ、と思います。
物語は、淡々と進みます。
始まりもなかったようなお話なので、きっと、終わりもないような終わり方をするんだろう。
そういうのも、心地よい。
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