2011年3月28日月曜日

わたしを離さないで



映画「わたしを離さないで」を、みてきました。
待望の。

感想ですが、原作者のカズオ・イシグロが制作にも関わったというだけあって、あと、脚本のアレックス・ガーランドとカズオ・イシグロは長年の友人関係ということもあって、とても、原作の雰囲気を再現できてる、と思った。
原作に忠実、というのとは、また違うのですが。
監督はそういう解釈をしたのだなぁ、という感じかなあ。
あの緻密な小説のいろんな要素の中で、そこを取り上げたらこうなるのか、と。

ただ、見てる時から、そして見終わったあとさらに、ものすごく悲しい気持ちになって、小説ではそんな風に思わなかったのになぜか、を、ずっと考えていた。
それはたぶん、「記憶」の扱い方だと。

カズオ・イシグロが去年、10数年ぶりに来日した際のインタビューで、
「キャシーは友人や恋人らをすべて失うが、記憶だけは誰にも奪われなかった。彼女を最後まで支えたのが、幸せな記憶です。記憶があれば、死に対して、ある部分では勝ったといえると思う」
と言ってます。
「提供者」である彼女たちがその運命を受け入れられたのは、ヘールシャムで与えられた「子供時代」があったからです。
それゆえ、他の施設と違って、ヘールシャムは特別だった。
トミーとルースも、その幸せな子供時代の記憶の一つだと思う。そこに特別な恋愛の要素が入ったとしても。
だからキャシーは、原作では映画と違って、トミーの最後を見届けることはせずに、再び自分の運命と向きあう。
全体にものすごく抑制がきいた文章ということもあるけれど、やはり、強い悲しみや絶望を原作からは感じられないのは、その子供時代の記憶がとても丁寧に書かれていて、恋愛以上の深いつながりを持てた、その記憶を、大切に大切に抱え、後悔したり償ったりぶつかったりしながらもういちど向き合う、そういう物語だからだと思う。
自分や大切な人の、あらがえない死に向き合う話だけでは、決して、ない。
希望、とはいえないかもしれないけど、あかり、がある。


とはいえ、映画もほんとうに良い出来でした。
とにかく映像がキレイ。カズオ・イシグロの小説は、どこか霧のかかったような雰囲気があると思うのですが、そんな感じをとてもよく表わせてる。
ぜひ、見てみてください。
原作を読んでいない人は、そっちの方をよりオススメするけどね。

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